2012年12月8日土曜日

ラプンツェルの旅


僕は3年前、たくさんのオレンジ色の灯りが空に浮かんでいる写真を見た。
数え切れないほどのオレンジの灯りは、僕の心を震わせた。
その写真と出逢ったのが3年前。



それから2年後、僕はその灯りに再び出逢った。
映画館のスクリーンをオレンジ色に灯しながら、その灯りは揺らめいていた。
『塔の上のラプンツェル』という映画で、僕の心は再び強く震えた。



オレンジ色の灯りの正体は、ランタン。
日本でいう灯籠流しを、タイでは空に放つ。


薄い紙で出来たランタンに火を灯すと、熱気球となり空へとのぼっていく。
オレンジ色の灯りは一斉に空に放たれ、ひと言で言えば『美しい』、ただそのひと言ではあまりにも事足りない景色なのだ。


見たい、行きたい、というただ単純な想いだけが僕の頭を支配した。



僕はその3年越しの想いを実現するために、タイはチェンマイへと向かった。



この先待ち受けるであろう感動をひとりではなく多くの人と共有したかった僕は、相方と共に航空券を取り、他にも誘い合わせ、結果として8人の仲間で集合した。
待ち合わせ場所は、チェンマイ。



僕と相方のアカがチェンマイに着くと、空港で母と合流。
昨年僕はインドへ両親を連れ出した。そこで味を占めた母が、今回は単独参戦。
そして、無事合流。



市内へと向かい、400バーツの宿にチェックイン。
日本円にして1000円くらい。
3人で泊まる訳だから、十二分に安い。
時間も遅かったので、近くのバーにて乾杯。はじまりの乾杯だ。



翌朝は、夏にインドで出逢った仲間と待ち合わせ。
これもスムーズに成功。ユースケと、旅の道連れエリ。




あとは、FURUSATOの仲間である伊東とサナと待ち合わせ。
彼らを空港へと迎えに行き、無事に待ち合わせ完了。



ユースケたちが待つ宿へと戻ると、アカが以前バンコクで出逢っていたリョーと遭遇。
偶然の再会で仲間は8人となった。




宿を泊まり合わせた仲間も加わり、12人の大所帯となり、ミニバンをチャーター。
オレンジ色の灯りを目指し、僕らの車は走り始めた。




目的地はメージョー大学。
車を少し走らせるとあちこちで夜空にオレンジ色の灯りがのぼり始めた。
その灯りを僕らは車で追いかける。
空に放つ時間はまだ一時間も先だ。
興奮と感動と、ほんの少しの焦る気持ちの中車は進む。




ドライバーのおっちゃんもだいぶ道を迷っているようで僕らの焦る気持ちは加速する。
夜空を彩るオレンジの数は少しずつ数を増していた。



そんなとき不安そうに運転していたドライバーが突然声を上げた。
「I got it!!」



よかった。
目的地に辿り着けるようだ。




僕らは胸を撫で下ろし、窓の外の無数のオレンジを眺め、期待に胸を膨らませた。




同じようにメージョー大学へ向かう車が増え始め、渋滞となり再び僕らは焦りを感じ始めた。
警察の誘導に従い、右へ左へ進んで行く。
路肩には所狭しと車が止められている。
その間を縫うように進み、やっとこさ見つけたスペースで僕らの車も停車した。
ここからは歩いて進むようだ。




僕らは待ち合わせ時間を決め、目的地と思われる方向へと歩き始めた。
蒸し暑い空気の中を、12人が早歩きで進んで行く。



10分ほど歩くと、屋台が並ぶスペースへと辿り着いた。
そこはさきほど見かけた数えきれないほどの路駐車の持ち主であろう人たちでゴッタ返していた。
あちこちで自由にコームロイ(熱気球)を空に放っている人たちがいる。
いよいよ目的地も近い。



僕は、遠巻きにコームロイが一斉にあがるところを見たいんじゃない。
真下から360度のオレンジに包まれたい。
そのためには、一斉にコームロイをあげる場所まで辿り着かなくてはならなかった




屋台が並ぶスペースから、人混みを掻き分けながら10分ほど進むと、その会場であろう場所にようやく辿り着いた。
よかった。間に合った。




しかし、人が多すぎて一歩も前に進むことが出来ない。
このままでは360度オレンジ天国の夢が叶うことはない。
僕らはどうしても前に進みたかった。




そんなとき目の前に強引に中へと押し入って行くタイ人を見つけた
僕らはそのタイ人が作り上げたほんの少しの空間に続いた。




道が少し開けたおかげで、内側に入り込むことが出来た僕らは、そのまま隙間を縫う様に進み、なんとか真ん中の方まで辿り着くことが出来た。
夢見た光景がすぐそばまで迫っていた。



それにしてもすごい人の数だ。
この人たちが一斉に空にコームロイを放つ。
想像しただけで、全身の毛穴が音を立てた。



さらに中央の方では僧侶がロウソクを持ち、なにか儀式のようなものを行っていたが、詳しくは見えなかった。
12人いた仲間も、はぐれて6人になっていた。



コームロイを空に放つ時間が近づいていき、今まで地面に座っていた人たちが一斉に立ち上がる。
コームロイに火を灯し始め、熱気球として大きく膨らみ始める。
コームロイの薄い紙を通して、あちこちでオレンジ色が揺らめいている。






フライングして空に放っているコームロイがいくつかある中、多くの人が辛抱強く合図のときを待っていた。
そして、スピーカーから流れる合図の音と共に、みんなの手からコームロイが空へと旅立っていく。




夜空にオレンジが広がる。

歓声があがる。

無数のシャッター音がする。







本当に数えきれないほどのオレンジが空にのぼっていく。
ここからは、もう何もコトバに出来ない。

圧巻。それだけ。







感動しているヒマもないくらいに、感動してしまった。
泣きそうになった僕の瞳は涙を流すことを諦めて、夜空に浮かぶ灯りを追いかけた。




母は泣きながら笑ってた。

リョーは夢中でシャッターを切り続けた。

伊東は写真を撮るのをやめて、自分の眼でとことん見ることにした。

アカは動画に収めようとしてたけど、カメラの先にあるオレンジ色を必死で目で追っていた。




みんなが口を揃えて言っていたのは『言葉に出来ない』という最大限の表現だった。





写真では伝えきれない。

動画でも伝えきれない。

言葉でも伝えられない。




そんな光景だった。





夜空に吹く風がコームロイをひとつの方角に運んで行く。
そのコームロイひとつひとつが寄り添うように大きな流れを作っていく。




星のようにも見える小ささまで空高くのぼっていき、ひとつの流れとなったコームロイは、オレンジ色の天の川みたいだった。







僕らは開始から一時間もその場から離れることができなかった。
みんなで感動を分かち合った記念に写真を撮って遊んで。
そんな時間は一瞬だった。



                                                            photo by Yusuke Abe




僕らは感動覚めやらぬまま、通勤ラッシュのような人混みの中を戻っていった。
来た道を戻るだけなのに、人の多さからまったく前に進めない。
やっとの想いで車へと戻り、乗り込んだ瞬間にスコールに打たれた。




圧倒的感動と、スコールから逃れられた幸運で、僕らは『満足』という言葉では足りない満足感に満ちた状態で宿へと戻った。




旅のはじまりにして、三年越しの幸福体験をしてしまった。





さて、残り9日間。
微笑みの国は、僕にどんな景色を見せてくれるのだろうか。




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